› ねこまたぎのひとりごと › 猫スペシリーズ › 決着!ねこまたぎ探検隊

2010年04月03日

決着!ねこまたぎ探検隊

決着!ねこまたぎ探検隊

…果てしない水平線、音も無く沈みゆく戦艦と渦巻く水面を
醒めた瞳で淡々と見つめる男が独り。

「…」

船の乗組員が大騒ぎで脱出する中、男は全く興味が無いかのように
鼻で笑い、大きく首を振った。

「…あんたは逃げないのかい?」
「生き急ぐのは苦手でね。きみもそうなんだろう、マタギ君…」
「ハハッ、俺のはただ無精なだけさ。面倒事はさっさとすませたいから
残っているだけだ。」

将軍は静かに振り返り、マタギと正面から相対する。そして自然な動作で
腰を引き、サーベルの柄に手をかけた。

「戦艦ぺティグリーは資産をつぎ込んで購入した私の全てだ。君から
奪った宝で手に入れたものが、こうしてまた君に奪われる」
「滑稽じゃないか。笑うところかな」
「そうだな…どちらかというと怒るところだと思うが…」

平静を装いつつ、マタギも腰の刀に腕をすべらせる。

「今はむしろ楽しくて仕方ないのだよ」
「…?」
「今まで数多くの財宝や資産を抱えてきたが、どうにも心躍るものが
なくてね。ずっと疑問に思っていたんだ。だが当然の事だった。
我々は宝を探す事そのものに魅了されているのだから」

これまでの将軍とはうって変わって、その瞳は遊びに没頭して我を忘れる
幼い少年のものと変わっていた。もし彼の瞳が覗き込める距離にいたのなら
きっと、そこには同じ目をした少年が映し出されていた事だろう。
…マタギは、なぜか可笑しくなって瞳を閉じた。

「…まあな。こうやって競い合っているのが一番楽しいや」
「そうだろう?だから日が…いや、船が沈むまで遊んでいこう」
「遊び終えたらおうちに帰って、明日も宝を探そうぜ」

決着!ねこまたぎ探検隊

将軍のサーベルが揺らめいて、輝く切っ先がホタルのように静かに留まる。
マタギの刀が空を切り、澄んだ刃先に海の青が写って消える。

「「それじゃあ、始めますかぁ!!!」」

素早い踏み込みで突き出す将軍のサーベルを右にかわして、左拳で弾く
マタギはそのまま袈裟懸けに切り込む。それをバックステップで避け、
懐のダガーを投げつける将軍。切り払うマタギ。
その瞬間船が大きく揺れ動き、足元から間欠泉のように海水が噴き出した。
いよいよ本格的に沈みゆくペティグリー、もう一度切りかかる将軍、
受け止めるマタギ。

水しぶきが全てを覆い隠す。蒼で埋まる視界。そのままフェードアウト。



…そして。


決着!ねこまたぎ探検隊

「そして?どうなるの?」
「普通は死んじゃうよな二人とも。周りは海だけな訳だし」
「…もう!そんな終わり方のお話があるわけ無いでしょ!」

少女はまた私のことバカにして、とほおを膨らませる。私は苦笑いして
どうにか取り繕うことにした。

「いやいやおっしゃるとおり、この話には続きがあるんだなー」
「ほんと?次はどんな探検なの?」
「いやあ、まあ後日譚はまだまだたくさんあるから今度ゆっくり
話してあげることにして…」

機嫌が直ってくれてよかった。そろそろ彼が到着する時間だし、子供はもう
眠る時間でもあるしな。うん。
ぐずる少女を膝から下ろして、もう寝なさいと頭をなでる。

「ん…分かった…また明日ね!」
「はいよ。おやすみ」

表で車の止まる音がした。やっと着いた様だな、待ちくたびれたぞ。
さあ、出発するとしようか。
支度を始める私に、少女はきょとんとした表情で訊ねた。

「おじさん、こんな時間にどこ行くの?」
「ああ、ちょっとお話のネタを集めにね」

私は腰に右手を当てて、古いカタナをポポンと叩いて答える。

「…ねこまたぎ探検隊の、最新ストーリーさ」


THE END



同じカテゴリー(猫スペシリーズ)の記事画像
潜入!ねこまたぎ探検隊
脱出!ねこまたぎ探検隊
遺言!ねこまたぎ探検隊
宿敵!ねこまたぎ探検隊
精密!ねこまたぎ探検隊
陰謀!ねこまたぎ探検隊
同じカテゴリー(猫スペシリーズ)の記事
 潜入!ねこまたぎ探検隊 (2009-11-27 08:00)
 脱出!ねこまたぎ探検隊 (2009-09-02 08:00)
 遺言!ねこまたぎ探検隊 (2009-06-13 08:00)
 宿敵!ねこまたぎ探検隊 (2009-05-23 08:00)
 精密!ねこまたぎ探検隊 (2009-04-22 08:00)
 陰謀!ねこまたぎ探検隊 (2009-03-22 08:00)

Posted by ねこまたぎ at 08:00│Comments(0)猫スペシリーズ
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
決着!ねこまたぎ探検隊
    コメント(0)